「理想主義をバカにするな」
吉田 健一
今年のノーベル平和賞受賞者に、アメリカのオバマ大統領が決まった。大統領
就任から僅か、9ヶ月でさしたる実績もまだ出していないオバマ氏へのノーベル
賞授与に対して、違和感を覚えた人も多いかもしれない。率直に言って、私も
驚くと共に、オバマ氏の受賞は早すぎるのではないかと感じた。プラハでの演
説で、核兵器廃絶を目指す事を表明した事が、今回のオバマ氏へのノーベル平
和賞受賞の大きな要因である。
だが、実際に、オバマ氏はまだ具体的な成果を挙げてはいないし、道筋も明ら
かにしているとは言い難い。オバマ氏の正体と、今後、本当に核兵器廃絶に向
かって具体的に様々な努力をして成果を挙げるかが不明な段階でのノーベル賞
はどうしても、早すぎるという感を拭えない。また、彼は、もしかすると、世
界の救世主の仮面を被った「偽メシア」である可能性もないとはいえない。
しかし、それでも、私は、現段階では、率直にオバマ氏を祝福したいと思って
いる。昨今、ここまで、はっきりと、遠いけれども目指すべき目標を表明した
指導者はいない。核兵器廃絶という、今の世界秩序を前提とする限り極めて困
難な事を目標に掲げた事を私は、現段階では支持している。これは、理想主義
というものをどう捉えるかだ。私は以から、訳知り顔をした、現実主義者の主
張というものを不満に思ってきた。特に戦争や核を巡る議論では、訳知り顔の
日本の親米保守主義者の言説に不愉快なものを感じてきた。
現実主義ほど「大人」と見なされる風潮の中で、ありえない程の理想を掲げる
事は、現代の社会では、いわば「バカ」な事である。理想など持たずに、現実
を分析するか、シニシズムに陥っているほうが「利巧」で「よくモノの分かっ
ている人」という風潮が世の中に満ち溢れている。観念的な理想主義や、地に
足の着いていない理想主義は幻想であるが、だからと言って、逆に「理想なき
現実主義」や「理想なき実証主義」が世の中を良い方向に向かわせる事はあり
得ない。我々は、理想主義をバカにするのをやめ、今一度、世界を進展させる
最初の力は「理想」である事の意味を考え直すべきであると思う。
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