「バラエティー番組の流す害毒」
吉田 健一
正直にいうが、私はバラエティー番組が大嫌いだ。「嫌いならば視なければ良
いだろう」といわれるだろうが、実際、ここ数年視ていない。だが、子どもが
視るので、音が聞こえてくる。小学生の子どもに、あまり厳しい事もいえない
ので、取りあえずはそのままにしている。今の所は、さして大きな弊害はない
と思って黙認しているが、出来れば、子どもにも視て欲しくないと考えている。
私がバラエティー番組を嫌いなのは、内容が低俗で面白くないどころか、不愉
快ですらあるからだ。この手の番組内の下品さは、今の日本の最も悪い部分を
凝縮したような雰囲気に満ちあふれているように思う。バラエティーに近いク
イズ番組もほぼ同じだ。これらの番組は、極論をいえば、現在の日本の社会の
一番低劣な部分、人間の欲望の一番公開すべきでない部分をそのまま電波に流
しているといっても過言ではない。また、モノを考えるという事を軽視してい
る日本の雰囲気を表わしてもいる。これらの空間では、誰もが真面目に深くも
のを考えず、その時のノリと低劣な空気の中で自己をアピールし、他人を貶め、
優位を保つ。そして、場の空気を読みあう。
バラエティーの類は、世間では「嫌いな人は視ない」で終わってしまっている
ので、さしたる問題にもならないのか、と思って少し調べてみた。2008年にあ
るTBSの番組で、芸人が後輩の女性芸人にセクハラまがいの事をした時に批判が
きて、放送界の第三者機関である放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検
証委員会が、いわゆるバラエティー番組全体について、倫理的な質や演出方法
を今後継続的に検討していくとの方針を発表するという事があったようだ。そ
れに対して、2008年11月、民放各社のトップの反応は次のようだった。(当時
の産経ニュースから引用。社長の名前は消した。)
「番組内容に批判がある場合、そのつど担当者に届く仕組みがある。編成の方
で注意してやっているはず」(TBS社長)、「個人の好み、さらに許容範囲もあ
る」(日本テレビ社長)、「社会に害毒まで流しているかとなると、どうなの
か。どこまで許されるのかは真剣に考えていかねばならない」(フジテレビ社
長)、「バラエティー番組は必要だ。セクハラはバラエティーとは別問題」(
テレビ朝日社長)、「バラエティー番組がお茶の間を良くも悪くも刺激してき
た多面的な評価を、きちっとした上で指摘してほしい」(テレビ東京社長)
今から1年半前の事だが、その後、この議論がどうなったか分からない。だが、
今日もバラエティーが全盛で同じような番組が流れ続けている事を思えば、真
面目な議論行われ、それがテレビ制作に反映された感じはない。
私が、不思議なのはよく、保守系の思想をもっている人が、政治の偏向報道に
ついては批判をして、NHKや朝日に抗議するのに、バラエティー番組について意
見をいわない事だ。理由は分からない。そういう人も低俗番組を楽しんでいる
のだろうか。または端から視ていないのだろうか。それとも、低俗番組批判は、
教育団体や市民団体の専売特許と思っているのだろうか…。または、政治報道
の番組比べ、低劣な番組は社会的影響力が少ないと思って無視しているのだろ
うか。
私は今の日本を悪くしているのは、政治番組の偏向や世論誘導よりも下品で低
劣なバラエティー番組だと思っている。思想の誘導以前に、レベルの低い、も
のを考えない空気と、善悪の判断基準すら持たない人間を生むからだ。
平日のゴールデンタイムにあまり高尚なものや、文化的なものを視たくない低
劣な視聴者が増えているので、バラエティー番組が全盛なのだろう。需要があ
るから供給されるという側面もあるのだろう。だが、ここにこそ、今の日本の
もつ問題が端的に表われているように感じざるを得ない。
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